【移籍の裏側】ニコ・パスを巡るレアル×コモの“複雑すぎる契約”を世界一わかりやすく解説 〜買い戻し条項という錬金術〜

2026-06-27

【移籍の裏側】ニコ・パスを巡るレアル×コモの“複雑すぎる契約”を世界一わかりやすく解説 〜買い戻し条項という錬金術〜

「レアルがいったん買い戻して、すぐコモに売り直す」――日本ではあまり見ない複雑な契約が、いまセリエAを騒がせている。アルゼンチンの新星ニコ・パスを巡る“買い戻し条項”の仕組みを、お金の流れを追いながら一つずつ分解。あわせて、湖畔の4部クラブを5年でCLへ押し上げた「資産8兆円」コモ1907の正体にも迫る。

2026年夏、欧州移籍市場で日本のサッカーファンを「?」でいっぱいにしている取引がある。アルゼンチン代表の新星ニコ・パス(21)を巡る、レアル・マドリーとコモ1907の契約だ。報じられた内容をそのまま読むと――「レアルが約10数億円で“買い戻し”、その数日後に約110億円でコモへ“売り直す”」。一度売った選手を、安く買い戻して、すぐ高く売り返す。一見すると意味不明なこの取引、実はヨーロッパでは珍しくない“契約の妙”が詰まっている。順番に、ゆっくり解きほぐしていこう。

まず3行で:何が起きているのか

ニコ・パス移籍の“ざっくり”全体像

時期出来事
2024年夏レアルがニコ・パスを約€6m(約11億円)でコモへ売却。ただし“買い戻し条項”付き
2025-26コモでニコ・パスが大ブレイク。市場価値が€60〜70m(110〜130億円)級に高騰
2026年夏レアルが約€9m(十数億円)で“買い戻し”→ そのままコモへ約€60m(約110億円)で“売り直し”

① 2024年、レアルは「保険」をつけて手放していた

話は2024年夏にさかのぼる。レアル・マドリーの下部組織で育ったニコ・パスは、出場機会を求めて昇格したばかりのコモへ、わずか約€6m(約11億円)で移籍した。だがレアルはこの売却に、ひとつの“仕掛け”を忍ばせていた。それが「買い戻し条項(バイバック/recompra)」だ。

買い戻し条項とは、「将来あらかじめ決めた金額を払えば、いつでもこの選手を取り戻せる」という売り手側の権利。レアルが付けた条件は、年を追うごとに値段が上がる“はしご”型だった――2025年夏なら約€8m、2026年夏なら約€9m、2027年夏なら約€10〜11m。つまり「育成した有望株を安く手放すけれど、化けたら格安で連れ戻せる保険」をかけた状態で送り出したわけだ。

※買い戻し条項は、スペインのクラブ(レアル、バルサ、アトレティコなど)が自前の若手を“武者修行”に出すときの常套手段。Jリーグの期限付き移籍(レンタル)に近いが、所有権ごと一度手放したうえで“買い戻す権利だけ”を残す点が異なる。

② コモでニコ・パスが大ブレイク

保険は、的中した。コモでのニコ・パスは、左利きから繰り出す高精度のパスとドリブル、得点力で一気に主役級へ。2025-26シーズンは公式戦40試合で13ゴール8アシストを記録し、セリエAの“最優秀MF”級の評価を受けるまでに成長した。市場価値は€60〜70m(110〜130億円)と、売値の10倍超に跳ね上がる。インテルなどビッグクラブも食指を動かし始めた。

ここでレアルの“保険”が効いてくる。価値が10倍になっても、レアルは契約の紙きれ一枚で、彼を約€9m(十数億円)で取り戻せるのだ。

③ レアルの“錬金術”――安く買い戻し、高く売り直す

そして2026年夏、レアルは買い戻し条項の行使を決断する(行使期限は6月30日)。ただし――レアルに本気でニコ・パスを今すぐチームに入れる意図は薄かった。狙いは別にある。「安く買い戻して、すぐに高く売り直す」ことで生まれる、巨額の差益だ。

買い戻し額は約€9m。一方、彼を最も欲しがっているのは、ほかでもない手放したくないコモ自身。そのコモが提示したのは、固定額€60m(約110億円)に加え、将来コモが彼を別のクラブへ売ったときの移籍金の一部もレアルに支払う、という条件だった。レアルは十数億円で買い戻し、その場で110億円超で売り返す。差し引き約€50m(90億円超)の利益が、ピッチで一度もプレーさせることなく転がり込む計算になる。

お金の流れ(目安)

局面金額の動きレアル側の損益
2024年 売却コモから受取 約€6m(約11億円)+11億円
2026年 買い戻しコモ経由で支払 約€9m(十数億円)−十数億円
2026年 売り直しコモから受取 約€60m(約110億円)+110億円
差益(買戻し→売直し)実質ノーリスクの利ざや約+€50m(90億円超)

④ それでも手綱は離さない――新たな買い戻し+“転売時の取り分”

レアルの抜け目なさは、ここで終わらない。コモへ売り直すこの契約にも、再び新しい買い戻し条項を埋め込んだと報じられている。金額は約€80m(約147億円)で、有効なのは“来夏の市場のみ”という限定つき。つまり「もう一年コモで成長を見届け、本物だと確信できたら、来夏に正規の値段で連れ戻す」という二段構えの再保険だ。さらに前述の通り、コモが将来彼を他クラブへ転売した際にも、移籍金の一部がレアルに入る。一度手放した選手に、レアルは“次の買い戻し権”と“転売時の取り分”という二重の鎖をかけ、半永久的に主導権を握り続けるのである。

※買い戻し額・条項の細部は報道により振れがある(初回の買い戻しを€10m、再条項を€80mとする媒体も)。本コラムは2026年6月時点の主要報道を基にした“仕組みの解説”であり、最終的な契約内容は当事者の発表で確定する。

なぜ日本では馴染みが薄いのか。Jリーグの移籍は「完全移籍」か「期限付き(レンタル)」がほとんどで、“一度完全に売ったうえで買い戻す権利だけ残す”という発想が一般的でないからだ。欧州の強豪、とりわけスペイン勢にとって、買い戻し条項は若手の育成と資金回収を両立させる「金融商品」のような契約ツール。ニコ・パスの一件は、その仕組みが最も鮮やかに(そしてややえげつなく)機能した実例と言える。

そもそもコモって何者? ――湖畔の小クラブを変えた“8兆円”

ここで疑問が湧く。なぜ“格上”であるはずのレアルが手放した選手を、コモが110億円も出して買い戻せるのか。答えはコモというクラブの、桁外れの資本力にある。

コモ1907のオーナーは、インドネシア最大級の財閥「ジャルム・グループ」を率いるロバート&マイケルのハルトノ兄弟。その総資産は約520億ドル(8兆円超)と、インドネシア長者番付でも最上位に位置する大富豪だ。2019年、経営難に陥っていたコモを買収し、潤沢な資金とビジョンを注ぎ込んだ。コモ湖畔の高級リゾートというブランドを前面に出した世界戦略、アディダスとの提携など、クラブを“グローバルブランド”として育てる発想は、近年の欧州サッカーでも屈指の洗練度を誇る。

セリエD(4部)から5年でCLへ

資本力は、結果に直結した。買収当時、コモはイタリア4部にあたるセリエDにいた。そこから階段を駆け上がり――

コモ1907 5年間の躍進

シーズンカテゴリ/成績
2019ハルトノ兄弟が買収。当時はセリエD(4部)
2021セリエB(2部)へ昇格
202421年ぶりにセリエA(1部)復帰
2024-25昇格1年目を無事残留(10位)
2025-264位でフィニッシュ。クラブ史上初のCL出場権を獲得
コモ1907が2019年のセリエD(4部)から5年でセリエA4位・初のCL出場権を獲得するまでの躍進の歩み
セリエD(4部)から5年でCLへ――コモ1907の躍進

躍進を現場で牽引するのが、元スペイン代表の名手セスク・ファブレガス監督。バルセロナ、アーセナル、チェルシーで活躍した彼は、現役晩年にコモへ加入してそのまま指揮官に転身。クラブの少数株主にも名を連ね、ピッチ内外でプロジェクトの“顔”となっている。豊富な資金で実力者を集めながら、若く魅力的なサッカーを志向するそのスタイルは、「全クラブが模範にすべき」と評されるほどだ。

「コモをセリエAに連れていくために、私はここに来た」

セスク・ファブレガス(コモ加入時)

ニコ・パスに110億円を投じ、レアルの“買い戻し”という難題にも真っ向から応じる――その背景には、こうした圧倒的な資本力と、明確な成長ストーリーがある。レアルにとっては育成と投資回収の妙技、コモにとってはエースを引き留めるための覚悟の一手。ニコ・パスを巡る“複雑すぎる契約”は、現代サッカーのマネーゲームと、それを動かす新興クラブの台頭を映す、格好のケーススタディなのだ。

※本コラムは2026年6月時点の各種報道(Yahoo!ニュース、Goal、OneFootball、Football-Italia 等)を基に、契約の仕組みを整理・解説したものです。金額・条項の細部は今後の公式発表で変動する可能性があります。

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