【韓国代表】兵役とサッカー選手 〜ソン・フンミン、キム・ミンジェ、イ・ガンインはなぜ免除されたのか。服務した選手と、アジア大会決勝の日韓戦に懸かるもの〜

2026-10-03

韓国の男性には兵役の義務があり、サッカー選手も例外ではない。キャリアの真ん中で約1年半ピッチを離れずに済む道は、五輪のメダルかアジア大会の金メダルだけだ。ソン・フンミンやイ・ガンインが免除された経緯、軍のチーム「尚武」で服務した代表選手たち、そして10月3日のアジア大会決勝・日韓戦で兵役免除が懸かる選手を整理した。

10月3日夜、豊田スタジアムでアジア大会の男子サッカー決勝・韓国対日本が行われる。韓国にとっては大会4連覇が懸かる一戦だが、選手個人にとってはもう一つ大きな意味がある。勝てば兵役が免除されるのだ。オーバーエイジで参加したヤン・ヒョンジュン(セルティック)、オム・ジソン(スウォンジー)、イ・ギヒョク(江原)の3人はいずれも兵役を終えておらず、欧州でプレーするペ・ジュンホやキム・ジスら若手も同じ立場にある。韓国サッカーを見るうえで欠かせない「兵役」について、制度の仕組みと、免除された選手・服務した選手の歴史をまとめた。

韓国の兵役――原則28歳までに入隊、陸軍なら18か月

韓国の成人男性には兵役の義務がある。服務期間は陸軍と海兵隊が18か月、海軍が20か月、空軍が21か月。入隊は原則28歳までで、延期できるのは満27歳までだ。サッカー選手は、軍のスポーツ部隊である国軍体育部隊のチーム「尚武(サンム)」に入れば、服務期間中もKリーグでプレーを続けられる。尚武への志願は満27歳以下が条件で、選考もある。かつては警察のチームもあった。

海外のクラブでプレーする選手は、国外での就業を理由に入隊を延期できる。ただし延期は免除ではない。期限が来れば帰国して入隊するしかなく、欧州で活躍する選手ほど、20代後半にキャリアが途切れるリスクを抱えることになる。

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免除の条件は「五輪3位以上」か「アジア大会の金」

例外が、スポーツ選手を対象にした「体育要員(芸術・体育要員)」の制度だ。兵務庁の規定では、五輪で3位以上、またはアジア大会で優勝した選手が対象になる。対象者は短期間の基礎軍事訓練を受けたあと、34か月(2年10か月)にわたって自分の競技で活動を続ける。その間に計544時間の公益服務(奉仕活動)をこなす必要があり、終わらなければ服務が延長される。実質的には競技生活を中断せずに済むため、「兵役免除」と呼ばれている。

体育要員(兵役特例)制度の主な変遷

年内容
1973年朴正煕政権が導入(第1号は1976年モントリオール五輪レスリング金の梁正模)
1981年世界大会・五輪・アジア大会の3位以上に拡大
1990年五輪3位以上とアジア大会金に絞り込み
2002年W杯ベスト16以上を追加(日韓W杯の代表が対象)
2006年WBC(野球)ベスト4以上を追加
2007年W杯・WBCの特例を廃止し、五輪3位以上とアジア大会金に戻る
2015年544時間の公益服務を義務化
2020年団体競技で試合に出場しなかった控え選手も対象に

2002年W杯――ベスト16で決まった特例、パク・チソンら10人

サッカーで特例が大きな話題になったのは、2002年の日韓W杯だ。韓国がグループリーグを突破すると、主将ホン・ミョンボが大統領に直訴し、兵役法施行令に付則を設ける形で特例が認められた。対象は兵役を終えていなかったパク・チソン、イ・ヨンピョ、アン・ジョンファン、チャ・ドゥリ、ソル・ギヒョン、イ・チョンス、ソン・ジョングク、チェ・テウク、ヒョン・ヨンミン、キム・ナミルの10人。チームはそのままベスト4まで勝ち進み、パク・チソンやイ・ヨンピョは大会後に欧州へ渡った。W杯の成績で免除される仕組みは、2006年に野球のWBCへも広げられたが、2007年にどちらも廃止された。

免除を勝ち取った大会と主な選手

兵役免除につながった大会(2002年W杯以降・男子サッカー)

大会成績決勝・3位決定戦免除された主な選手
2002年W杯(日韓)4位(特例)—パク・チソン、イ・ヨンピョ、アン・ジョンファン、チャ・ドゥリ、ソル・ギヒョン、イ・チョンスら10人
2012年ロンドン五輪銅メダル3位決定戦 日本に2-0キ・ソンヨン、ク・ジャチョル、パク・チュヨン、チ・ドンウォン、キム・ヨングォン、チョン・ソンリョン、ユン・ソギョン、ペク・ソンドン、キム・ボギョン
2014年仁川アジア大会金メダル北朝鮮に1-0(延長)イ・ジェソン、キム・スンギュ、キム・シヌク、キム・ジンス、チャン・ヒョンス、イム・チャンウ、パク・チュホ
2018年ジャカルタ・パレンバン アジア大会金メダル日本に2-1(延長)ソン・フンミン、ファン・ヒチャン、キム・ミンジェ、ファン・インボム、イ・スンウ、ファン・ウィジョ、チョ・ヒョヌ
2022年杭州アジア大会(2023年開催)金メダル日本に2-1イ・ガンイン、チョン・ウヨン、ホン・ヒョンソク、ソル・ヨンウ、ペク・スンホ、パク・ジンソプ、イ・ハンボム、ソン・ミンギュ、オム・ウォンサン、チョ・ヨンウク

2012年は18人全員、2018年は20人全員が対象になった。2018年大会では、警察のチーム(牙山無窮花)で9か月服務していたファン・インボムも残りの服務を免れ、早期除隊になった。2023年の杭州大会は、すでに尚武で服務を終えていたGKキム・ジョンフンらを除く選手が対象。

表を見ると、いまの韓国代表を支える欧州組の多くが、アジア大会の金で兵役を免れていることがわかる。キム・ミンジェとファン・ヒチャンは2018年、イ・ガンインとソル・ヨンウは2023年の金メダル組だ。逆に言えば、アジア大会は韓国にとって「勝たなければならない大会」になっている。年代別代表の大会なのに、兵役を終えていない主力をオーバーエイジ枠で送り込むのはそのためだ。

ソン・フンミンの場合――2014年は招集拒否、2018年にようやく

ソン・フンミンが免除を手にするまでには時間がかかった。2014年の仁川アジア大会は、所属のレバークーゼンが招集を拒否して出場できなかった。アジア大会はFIFAの公式大会ではなく、クラブに選手を送り出す義務がないためだ。韓国はこの大会で金メダルを取ったが、ソンはその場にいなかった。2016年のリオ五輪はベスト8でホンジュラスに0-1で敗れてメダルを逃した。

延期の期限が近づくなか、トッテナムの理解を得てオーバーエイジで出場したのが2018年のジャカルタ・パレンバン大会だった。決勝の日本戦は延長にもつれ込み、ソンのお膳立てからイ・スンウとファン・ヒチャンが決めて2-1で勝利。主将として金メダルを手にした。2020年4月から5月には、済州島の海兵隊第9旅団で3週間の基礎軍事訓練を受け、訓練兵157人の中で1位となって「必勝賞」を受けた。射撃は10発すべてを命中させたと報じられている。

パク・チュヨンの延期騒動と「4分除隊」

制度をめぐっては、たびたび論争も起きてきた。2012年3月には、モナコでプレーしていたパク・チュヨンが、現地の長期滞在資格を使って兵務庁から国外旅行期間の延長許可を取っていたことが明らかになった。最長で37歳まで入隊を先送りできる手続きで、「兵役逃れではないか」と強い批判を浴びた。パクは6月の会見で「必ず現役で入隊する」と表明したが、その直後のロンドン五輪で銅メダルを取り、結果的に免除された。3位決定戦の日本戦では先制ゴールを決めている。

同じロンドン五輪では、DFキム・ギヒが3位決定戦の終盤、約4分間だけ出場して特例の対象になった。当時の規定は「試合に出場した選手」に限られていたため、監督が最後に交代カードを切ったのだ。「4分除隊」と呼ばれたこの一件をきっかけに議論が進み、2020年には試合に出なかった控え選手も対象に含める形へ施行令が改められた。

兵役に就いた選手たち――軍のチーム「尚武」

免除を手にできなかった選手の多くは、尚武に入ってプレーを続けながら服務する。尚武は1984年に創設され、本拠地を光州(2002〜2010年)、尚州(2011〜2020年)、金泉(2021年〜)と移してきた。外国人選手は保有できず、ACLにも出場できないが、代表クラスの選手がそろうためKリーグでは侮れない存在だ。2024年と2025年はK1で3位に入っている。

尚武で服務した主な代表選手

選手入隊〜除隊メモ
イ・グノ尚州尚武2014年W杯ロシア戦で先制点。兵長の身分で出場し、月給は約14万9000ウォンと報じられた
オ・ヒョンギュ2020年〜2021年11月19歳で早めに入隊。除隊後にセルティックへ移籍し、欧州で活躍する
チョ・ギュソン、チョン・スンヒョン、ク・ソンユン2021年3月〜2022年9月金泉尚武の3期。チョ・ギュソンは服務中に得点を量産し、カタールW杯で2得点
パク・チス2021年6月〜2022年12月4期
クォン・チャンフン2021年12月〜2023年6月尚武所属のままカタールW杯に出場
イ・ドンギョン2024年4月〜2025年10月9期

オ・ヒョンギュは、兵役を早めに済ませてから欧州に渡った例として知られる。延期の期限や大会の結果に左右されずに移籍できるため、同じ道を選ぶ選手もいる。一方、尚武は金泉市との協約が2026年12月31日で終わる。金泉市は9月に市民クラブ化を断念すると発表し、2026年はどの順位で終えてもK2への降格が決まっている。2027年は新しい本拠地を探して、K2から再出発することになる。警察のチーム(牙山無窮花)は義務警察制度の廃止に伴って2019年に解散した。

兵役をめぐって法的な問題になった例もある。フランスでプレーしていたソク・ヒョンジュンは、2019年に国外滞在の延長を認められず、帰国命令にも従わなかったとして兵役法違反に問われた。2023年6月の一審判決は懲役8か月・執行猶予2年だった。

今夜の決勝――4連覇と兵役免除が懸かる日韓戦

イ・ミンソン監督が率いる今回のアジア大会代表は、U-23の選手を中心とする23人で、欧州組が9人いる。グループリーグはイラクの棄権で2試合だけになり、カタールに4-1(オム・ジソンがハットトリック)、サウジアラビアに2-0。準々決勝でベトナムを4-0、9月30日の準決勝では中国に先制されながらイ・ヨンジュンとペ・ジュンホのゴールで2-1と逆転した。決勝の相手は、オーバーエイジを使わずU-21で臨み、準決勝でウズベキスタンをPK戦の末に下した日本だ。日韓が決勝で顔を合わせるのは3大会連続になる。

アジア大会2026 韓国代表で兵役免除が懸かる主な選手

選手所属メモ
ヤン・ヒョンジュンセルティックオーバーエイジ。2026年W杯代表。準決勝はハムストリングで欠場
オム・ジソンスウォンジーオーバーエイジ。2026年W杯代表。カタール戦でハットトリック
イ・ギヒョク江原FCオーバーエイジで主将。2026年W杯代表。準決勝は足の炎症で欠場
ペ・ジュンホストーク準決勝の中国戦で決勝ゴール
キム・ジスブレントフォードセンターバック
ヤン・ミンヒョクトッテナムウインガー
イ・ヒョンジュアロウカ攻撃的MF
パク・スンスニューカッスルウインガー
キム・ミョンジュンヘンクFW
イ・ヨンジュングラスホッパーFW。準決勝で同点ゴール

所属は7月の大会メンバー発表時点。ヤン・ヒョンジュン、オム・ジソン、イ・ギヒョクの3人が兵役を終えていないことは韓国メディアが報じている。他の選手の兵役の状況は、未服務と報じられた選手のみを載せた。イ・ギヒョクとヤン・ヒョンジュンについては、監督が決勝でも完全な回復は難しいと話している。

今大会では、野球の韓国代表が決勝で日本を破って金メダルを取り、24人中16人が特例の対象になったことで、制度の公平性があらためて議論になっている。2018年には、複数の大会の成績を点数にして合算する「累積点数制」が政府の作業部会から提案されたが、体育界の反対で実現しなかった。一発勝負の大会の結果が選手の人生を大きく変える仕組みは、今も変わっていない。

二重国籍のカストロプは?

2025年に韓国代表入りしたドイツ生まれのイェンス・カストロプは、韓国とドイツの二重国籍だ。生まれつきの二重国籍で24歳より前から国外に住んでいる場合、入隊は37歳まで延期でき、38歳になると義務がなくなる。ただし、韓国に年6か月以上滞在したり、韓国で営利活動をしたりすると義務が生じるとされる。本人は代表入りの際に「マネージャーと話している。今は代表選手でいられて幸せ」と話していた。

まとめ――兵役は韓国サッカーの「もう一つの日程表」

韓国の選手のキャリアは、兵役を抜きにしては語れない。いつ入隊するか、免除のチャンスがある大会に呼ばれるか、延期の期限までに海外でどこまで上り詰められるか。アジア大会や五輪の結果が、選手の移籍や代表の顔ぶれにまで影響してきた。今夜の日韓戦も、スコア以上のものが懸かった90分になる。

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※本稿は2026年10月3日、アジア大会決勝の前の時点の情報。服務期間・制度は兵務庁と韓国メディアの報道に基づく。基礎軍事訓練の期間は報道によって3週間と4週間に分かれるため、本文では具体的な週数を書いていない(ソン・フンミンが受けたのは3週間)。

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